オバマ前米大統領の、新しい本の和訳が物議を醸している。
https://news.yahoo.co.jp/byline/yanaihitofumi/20201119-00208524/
原文で、誤訳を言われた箇所は、下記。
そして私なりの翻訳(というより意訳にしてみた):
A pleasant if awkward fellow, Hatoyama was Japan’s fourth prime minister in less than three years and the second since I’d taken office ー a symptom of the sclerotic, aimless politics that had plagued Japan for much of decade. He’d be gone seven months later.
=鳩山氏は(個人的に)やりにくいと感じる面はあるものの大方付き合いやすい人だった。当時日本は、3年の間に首相が交替を3回も繰り返し、鳩山氏で4人目、私の就任後も2人目という状況で、それまでの10年間日本が経験した、硬直し迷走する政治を、よく表していた。鳩山氏もそれから7か月後には辞任している。
この”pleasant if awkward“をどう訳すか、が議論になった。
上の意訳では、かなり長い文章になっているが、これを共同通信やNHKが、異なる訳にしている:
【共同通信】オバマ前米大統領は、・・・、鳩山由紀夫元首相について「感じは良いが、やりにくい」と振り返った。「3年未満で4人目の首相だった。硬直化し、目的を失って漂流した政治の症状」と指摘した。
【NHK NEWS】アメリカのオバマ前大統領が、当時の鳩山総理大臣について、「硬直化し、迷走した日本政治の象徴だ」と記す。
これらの訳、実はどちらも間違い。理由は、下記の二つ。
間違い①:A if B
A if B = 「BであってもA」
なので、”pleasant if awkward” = 「awkwardであってもpleasant」
という意味。
awkward = ぎこちない、やりにくい
pleasant = 感じのよい、(一緒にいて)楽しい
という二つの反する単語をifでくっつけているため、一瞬どちらが先が迷うが、このifが間に入っている場合、強調されるべきはあくまでも前者のpleasantのほうである。そのため、「感じはよいが一緒に行動するのはやりにくい」ではなく、「一緒に行動するのはやりにくいが、全体的に感じはよい」と訳すのが正解。
間違い②:symptom がどこにかかるか
次に、文章中に「ー」が入ったときの訳し方。
Hatoyama was Japan’s fourth prime minister in less than three years and the second since I’d taken office ー a symptom of the sclerotic, aimless politics that had plagued Japan for much of decade. He’d be gone seven months later.
「ー」の後にくる「硬直し迷走する政治のシンボル(象徴)」は、「3年で首相がコロコロ変わったという事実」を指しているのであって、「鳩山氏」とイコールなわけではない。
それは、その前に、①でも述べたように、鳩山氏のことを決して悪く言っていないことからもわかる。
このように、英語で話すとあまりにもストレートになってしまうため、日本語に訳したときに、グサッと感じる訳語があまりにも多いような気がする。
オバマ氏のように、英語人として、とてもソフトな話し方をする(そして、よく曖昧な表現をする)人の訳をしたとき、こういった誤解が生まれやすい。
マイナスな感情か、プラスな感情かをハッキリ表す英語。
それに翻弄されてしまった翻訳の典型的な例ともいえるだろう。
ちなみに、日本語では、よく卑下しながら誉めるということがある。
例えば、親が、
「ウチの息子は本当に不器用で・・・」
っていうことが、実は自慢話だったりする。
高倉健が、
「俺は不器用なんで」
と言っているけれども、それがいいのよ、と言っているファンがいる。
こういう場面における、英訳はとても難しい。
なぜなら、
不器用 = awkward, rough
などと訳すと、それはネガティブなコトバでしかないからだ。
こういった翻訳者泣かせなコトバで、政治や経済が影響を受けてしまったりする。
「言語を操れる者は、その国の大使である」
というコトバが好きだが、そういう気合をもって、英語を話そう。
原文を読みたい人は、こちら: